日蓮大聖人御書
ネット御書
(持妙法華問答抄)
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然らば則ち其の人を毀るは其の法を毀るなり其の子を賎しむるは即ち其の親を賎しむなり、爰に知んぬ当世の人は詞と心と総てあはず孝経を以て其の親を打つが如し豈冥の照覧恥かしからざらんや地獄の苦み恐るべし恐るべし慎むべし慎むべし、上根に望めても卑下すべからず下根を捨てざるは本懐なり、下根に望めても、慢ならざれ上根ももるる事あり心をいたさざるが故に凡そ其の里ゆかしけれども道たえ縁なきには通ふ心もをろそかに其の人恋しけれども憑めず契らぬには待つ思もなをざりなるやうに彼の月卿雲閣に勝れたる霊山浄土の行きやすきにも未だゆかず我即是父の柔ュの御すがた見奉るべきをも未だ見奉らず、是れ誠に袂をくだし胸をこがす歎ならざらんや、暮行空の雲の色有明方の月の光までも心をもよほす思なり、事にふれをりに付けても後世を心にかけ花の春雪の朝も是を思ひ風さはぎ村雲まよふ夕にも忘るる隙なかれ、出ずる息は入る息をまたず何なる時節ありてか毎自作是念の悲願を忘れ何なる月日ありてか無一不成仏の御経を持たざらん、昨日が今日になり去年の今年となる事も是れ期する処の余命にはあらざるをや、総て過ぎにし方をかぞへて年の積るをば知るといへども今行末にをいて一日片時も誰か命の数に入るべき、臨終已に今にありとは知りながら我慢偏執名聞利養に著して妙法を唱へ奉らざらん事は志の程無下にかひなし、さこそは皆成仏道の御法とは云いながら此の人争でか仏道にものうからざるべき、色なき人の袖にはそぞろに月のやどる事かは、又命已に一念にすぎざれば仏は一念随喜の功徳と説き給へり、若し是れ二念三念を期すと云はば平等大慧の本誓頓教一乗皆成仏の法とは云はるべからず、流布の時は末世法滅に及び機は五逆謗法をも納めたり、故に頓証菩提の心におきてられて狐疑執著の邪見に身を任する事なかれ、生涯幾くならず思へば一夜のかりの宿を忘れて幾くの名利をか得ん、又得たりとも是れ夢の中の栄へ珍しからぬ楽みなり、只先世の業因に任せて営むべし世間の無常をさとらん事は眼に遮り耳にみてり、雲とやなり雨とやなりけん昔の人は只名をのみきく、


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