日蓮大聖人御書
ネット御書
(種種御振舞御書)
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これほどの悦びをばわらへかし、いかにやくそくをばたがへらるるぞと申せし時、江のしまのかたより月のごとくひかりたる物まりのやうにて辰巳のかたより戌亥のかたへひかりわたる、十二日の夜のあけぐれ人の面もみへざりしが物のひかり月よのやうにて人人の面もみなみゆ、太刀取目くらみたふれ臥し兵共おぢ怖れけうさめて一町計りはせのき、或は馬よりをりてかしこまり或は馬の上にてうずくまれるもあり、日蓮申すやういかにとのばらかかる大禍ある召人にはとをのくぞ近く打ちよれや打ちよれやとたかだかとよばわれどもいそぎよる人もなし、さてよあけばいかにいかに頚切べくはいそぎ切るべし夜明けなばみぐるしかりなんとすすめしかどもとかくのへんじもなし。
 はるか計りありて云くさがみのえちと申すところへ入らせ給へと申す、此れは道知る者なしさきうちすべしと申せどもうつ人もなかりしかばさてやすらうほどに或兵士の云くそれこそその道にて候へと申せしかば道にまかせてゆく、午の時計りにえちと申すところへゆきつきたりしかば本間六郎左衛門がいへに入りぬ、さけとりよせてもののふどもにのませてありしかば各かへるとてかうべをうなたれ手をあさへて申すやう、このほどはいかなる人にてやをはすらん我等がたのみて候阿弥陀仏をそしらせ給うとうけ給わればにくみまいらせて候いつるにまのあたりをがみまいらせ候いつる事どもを見て候へばたうとさにとしごろ申しつる念仏はすて候いぬとてひうちぶくろよりすずとりいだしてすつる者あり、今は念仏申さじとせいじやうをたつる者もあり、六郎左衛門が郎従等番をばうけとりぬ、さえもんのじよう(左衛門尉)もかへりぬ。
 其の日の戌の時計りにかまくらより上の御使とてたてぶみをもちて来ぬ、頚切れというかさねたる御使かともののふどもはをもひてありし程に六郎左衛門が代官右馬のじようと申す者立ぶみもちてはしり来りひざまづいて申す、今夜にて候べしあらあさましやと存じて候いつるにかかる御悦びの御ふみ来りて候、


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