日蓮大聖人御書
ネット御書
(頼基陳状)
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 此の御房は争か人の心をば知り給うべき某こそ当時日本国に聞え給う日蓮聖人の弟子として候へ、某が師匠の聖人は末代の僧にて御坐候へども当世の大名僧の如く望んで請用もせず人をも●はず聊か異なる悪名もたたず只此の国に真言禅宗浄土宗等の悪法並に謗法の諸僧満ち満ちて上一人をはじめ奉りて下万民に至るまで御帰依ある故に法華経教主釈尊の大怨敵と成りて現世には天神地祇にすてられ他国のせめにあひ、後生には阿鼻大城に堕ち給うべき由経文にまかせて立て給いし程に此の事申さば大なるあだあるべし申さずんば仏のせめのがれがたし、いはゆる涅槃経に「若し善比丘あつて法を壊る者を見て置いて呵責し駈遣し挙処せずんば当に知るべし是の人は仏法の中の怨なり」等と云云、世に恐れて申さずんば我が身悪道に堕つべきと御覧じて身命をすてて去る建長年中より今年建治三年に至るまで二十余年が間あえてをこたる事なし、然れば私の難は数を知らず国王の勘気は両度に及びき、三位も文永八年九月十二日の勘気の時は供奉の一人にて有りしかば同罪に行はれて頚をはねらるべきにてありしは身命を惜むものにて候かと申されしかば。
 竜象房口を閉て色を変え候しかば此の御房申されしは是程の御智慧にては人の不審をはらすべき由の仰せ無用に候けり苦岸比丘勝意比丘等は我れ正法を知りて人をたすくべき由存ぜられて候しかども我が身も弟子檀那等も無間地獄に堕ち候き、御法門の分斉にてそこばくの人を救はむと説き給うが如くならば師檀共に無間地獄にや堕ち給はんずらむ今日より後は此くの如き御説法は御はからひあるべし、加様には申すまじく候へども悪法を以て人を地獄にをとさん邪師をみながら責め顕はさずば返つて仏法の中の怨なるべしと仏の御いましめのがれがたき上聴聞の上下皆悪道にをち給はん事不便に覚え候へば此くの如く申し候なり、智者と申すは国のあやうきをいさめ人の邪見を申しとどむるこそ智者にては候なれ、是はいかなるひが事ありとも世の恐しければいさめじと申されむ上は力及ばず、某は文殊の智慧も富楼那の弁説も詮候はずとて立たれ候しかば、


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