日蓮大聖人御書
ネット御書
(頼基陳状)
<1.前 P1158 2.次>

彼の御房の持戒げなるが大誑惑なるは顕然なるべし、上代も祈雨に付て勝負を決したる例これ多し、所謂護命と伝教大師と守敏と弘法なり、仍て良観房の所へ周防房入沢の入道と申す念仏者を遣わす御房と入道は良観が弟子又念仏者なりいまに日蓮が法門を用うる事なし是を以て勝負とせむ、七日の内に雨降るならば本の八斎戒念仏を以て往生すべしと思うべし、又雨らずば一向に法華経になるべしといはれしかば是等悦びて極楽寺の良観房に此の由を申し候けり、良観房悦びないて七日の内に雨ふらすべき由にて弟子百二十余人頭より煙を出し声を天にひびかし或は念仏或は請雨経或は法華経或は八斎戒を説きて種種に祈請す、四五日まで雨の気無ければたましゐを失いて多宝寺の弟子等数百人呼び集めて力を尽し祈りたるに七日の内に露ばかりも雨降らず其の時日蓮聖人使を遣す事三度に及ぶ、いかに泉式部と云いし婬女能因法師と申せし破戒の僧狂言綺語の三十一字を以て忽にふらせし雨を持戒持律の良観房は法華真言の義理を極め慈悲第一と聞へ給う上人の数百人の衆徒を率いて七日の間にいかにふらし給はぬやらむ、是を以て思ひ給へ一丈の堀を越えざる者二丈三丈の堀を越えてんややすき雨をだにふらし給はず況やかたき往生成仏をや、然れば今よりは日蓮怨み給う邪見をば是を以て翻えし給へ後生をそろしくをぼし給はば約束のままにいそぎ来り給へ、雨ふらす法と仏になる道をしへ奉らむ七日の内に雨こそふらし給はざらめ、旱魃弥興盛に八風ますます吹き重りて民のなげき弥弥深し、すみやかに其のいのりやめ給へと第七日の申の時使者ありのままに申す処に良観房は涙を流す弟子檀那同じく声をおしまず口惜しがる日蓮御勘気を蒙る時此の事御尋ね有りしかば有りのままに申し給いき、然れば良観房身の上の恥を思はば跡をくらまして山林にもまじはり約束のままに日蓮が弟子ともなりたらば道心の少にてもあるべきにさはなくして無尽の讒言を構えて殺罪に申し行はむとせしは貴き僧かと日蓮聖人かたり給いき又頼基も見聞き候き、他事に於てはかけはくも主君の御事畏れ入り候へども此の事はいかに思い候ともいかでかと思はれ候べき。


<1.前 P1158 2.次>