日蓮大聖人御書
ネット御書
(善無畏三蔵抄)
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此の仏は賢劫第九人寿百歳の時中天竺浄飯大王の御子十九にして出家し三十にして成道し五十余年が間一代聖教を説き八十にして御入滅舎利を留めて一切衆生を正像末に救ひ給ふ、阿弥陀如来薬師仏大日等は他土の仏にして此の世界の世尊にてはましまさず、此の娑婆世界は十方世界の中の最下の処譬えば此の国土の中の獄門の如し、十方世界の中の十悪五逆誹謗正法の重罪逆罪の者を諸仏如来擯出し給いしを釈迦如来此の土にあつめ給ふ、三悪並びに無間大城に堕ちて其の苦をつぐのひて人中天上には生れたれども其の罪の余残ありてややもすれば正法を謗じ智者を罵り罪つくりやすし、例せば身子は阿羅漢なれども瞋恚のけしきあり、畢陵は見思を断ぜしかども慢心の形みゆ、難陀は婬欲を断じても女人に交る心あり、煩悩を断じたれども余残あり何に況や凡夫にをいてをや、されば釈迦如来の御名をば能忍と名けて此の土に入り給うに一切衆生の誹謗をとがめずよく忍び給ふ故なり、此等の秘術は他仏のかけ給へるところなり、阿弥陀仏等の諸仏世尊悲願をおこさせ給いて心にははぢをおぼしめして還つて此の界にかよひ四十八願十二大願なんどは起させ給ふなるべし、観世音等の他土の菩薩も亦復是くの如し、仏には常平等の時は一切諸仏は差別なけれども常差別の時は各各に十方世界に土をしめて有縁無縁を分ち給ふ、大通智勝仏の十六王子十方に土をしめて一一に我が弟子を救ひ給ふ、其の中に釈迦如来は此土に当り給ふ我等衆生も又生を娑婆世界に受けぬ、いかにも釈迦如来の教化をばはなるべからず而りといへども人皆是を知らず委く尋ねあきらめば唯我一人能為救護と申して釈迦如来の御手を離るべからず、而れば此の土の一切衆生生死を厭ひ御本尊を崇めんとおぼしめさば必ず先ず釈尊を木画の像に顕わして御本尊と定めさせ給いて其の後力おはしまさば弥陀等の他仏にも及ぶべし。
 然るを当世聖行なき此の土の人人の仏をつくりかかせ給うに先ず他仏をさきとするは其の仏の御本意にも釈迦如来の御本意にも叶ふべからざる上世間の礼儀にもはづれて候、されば優填大王の赤栴檀いまだ他仏をばきざませ給はず、


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