日蓮大聖人御書
ネット御書
(善無畏三蔵抄)
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千塔王の画像も釈迦如来なり、而るを諸大乗経による人人我が所依の経経を諸経に勝れたりと思ふ故に教主釈尊をば次さまにし給ふ、一切の真言師は大日経は諸経に勝れたりと思ふ故に此の経に詮とする大日如来を我等が有縁の仏と思ひ念仏者等は観経等を信ずる故に阿弥陀仏を娑婆有縁の仏と思ふ、当世はことに善導法然等が邪義を正義と思いて浄土の三部経を指南とする故に十造る寺は八九は阿弥陀仏を本尊とす、在家出家一家十家百家千家にいたるまで持仏堂の仏は阿弥陀なり、其の外木画の像一家に千仏万仏まします大旨は阿弥陀仏なり、而るに当世の智者とおぼしき人人是を見てわざはひとは思はずして我が意に相叶ふ故に只称美讃歎の心のみあり、只一向悪人にして因果の道理をも弁へず一仏をも持たざる者は還つて失なきへんもありぬべし、我等が父母世尊は主師親の三徳を備えて一切の仏に擯出せられたる我等を唯我一人能為救護とはげませ給ふ、其の恩大海よりも深し其の恩大地よりも厚し其の恩虚空よりも広し、二つの眼をぬいて仏前に空の星の数備ふとも身の皮を剥いで百千万天井にはるとも涙を閼伽の水として千万億劫仏前に花を備ふとも身の肉血を無量劫仏前に山の如く積み大海の如く湛ふとも此の仏の一分の御恩を報じ尽しがたし。
 而るを当世の僻見の学者等設ひ八万法蔵を極め十二部経を諳んじ大小の戒品を堅く持ち給ふ智者なりとも此の道理に背かば悪道を免るべからずと思食すべし、例せば善無畏三蔵は真言宗の元祖烏萇奈国の大王仏種王の太子なり、教主釈尊は十九にして出家し給いき此の三蔵は十三にして位を捨て月氏七十箇国九万里を歩き回りて諸経諸論諸宗を習い伝へ北天竺金粟王の塔の下にして天に仰ぎ祈請を致し給えるに虚空の中に大日如来を中央として胎蔵界の曼荼羅顕れさせ給ふ、慈悲の余り此の正法を辺土に弘めんと思食して漢土に入り給ひ玄宗皇帝に秘法を授け奉り旱魃の時雨の祈をし給いしかば三日が内に天より雨ふりしなり、此の三蔵は千二百余尊の種子尊形三摩耶一事もくもりなし、当世の東寺等の一切の真言宗一人も此の御弟子に非るはなし、而るに


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