「五百塵点劫の昔」の計算の詳細
 

以下は、題記の計算の過程を示したもので、この計算結果はすでに前ページで述べています。
さて、五百塵点劫の昔がどれくらい昔かを計算するのにあたって、下のように4つの段階で計算します。
まず、経文に入る前に、下の(1)、(2)の量を導出しておきます。
 
(1)五百千万億那由侘阿僧祗・・・・・・・・・・・・・・・a 
 

五百千万億那由侘阿僧祗という数を以下”a”とおきます。

億 =10万=100000=10 [千万(=10)の説もある]
那由侘=1011
阿僧祗=1051 (倶舎論による) [池田先生とウィックラマシンゲ博士との対談集*3には
1059と書かれています。]
 

a=五百千万億那由侘阿僧祗=五×百×千×万×億×那由侘×阿僧祗
=5×100×1000×10000×10×1011×1051

=5×10×10×10×10×1011×1051
=5×10(2+3+4+5+11+51)
=5×1076
∴a=5×1076 [但し、aの最小値amin=5×1075、最大値amax=5×1086
 
 
 
(2)三千大千世界の質量・・・・・・・・・・・・・M[g]

仏法で説く三千大千世界とは「大千世界」のことであり、下のように一小世界を基本として、小千、 中千、大千の3階層よりなる大千世界なので三千大千世界と呼ばれます。

一小世界 = 一つの恒星をとりまく世界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(恒星が1個 )
一小千世界 = 一小世界×百億(1千万) = 一小世界×10 ・・・・・・・・・(恒星が10 個)
一中千世界 = 一小千世界×一千 = 一小世界×1010 ・・・・・・・・・(恒星が1010個)
一大千世界 = 一中千世界×一千 = 一小世界×1013 ・・・・・・・・・(恒星が1013個)

ちなみに、天文学の分類では、
太陽系 = 太陽(恒星)とそれをとりまく惑星の系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(恒星が1個 )
銀河系 = 1011の恒星の系よりなる。(アンドロメダ銀河など)・・・・・・(恒星が1011個)
銀河団 = 50以上の銀河が密集している集団。(おとめ座団など)・・・・(恒星が1013個)

上で示したように、仏法で説く三千大千世界は恒星が1013個ある系のことです。また、天文学でいうところの銀河団は50以上の銀河系が集まった系であり、「50以上」ということは、オーダー的には、100(=10)であるので、銀河団の恒星の数は1013個となります。つまり、仏法で説く三千大千世界は、銀河団ぐらいのスケールのものだということがいえます。尚、銀河団について補足すると、例えば、おとめ座団は45の銀河からなり、ペルセウス座団は88の銀河、かみのけ座団は106の銀河からなる銀河団です。
さて、三千大千世界のスケールがわかったところで、次にこの三千大千世界の質量をM[g]として、以下Mを求めます。M=銀河団の質量ですが、しかし、銀河団はおろか我々の住む銀河系の総質量さえも現在正確には知られていません。
但し、銀河系の可視総質量MGvはわかっており、MGv=2×1011×太陽質量です*5 これは、観測で見える恒星の数をかぞえて、銀河系の恒星の総数に太陽程度の質量を掛けたもです。ではこの可視総質量が銀河の総質量を与えるかというとそうではありません。
 銀河は渦巻銀河と呼ばれるように、銀河の星やガスは銀河の中心の回りに回転運動を行っており、例えば太陽系は約2億年で一周します。太陽系の惑星もも太陽を中心として回転していますが、内側を回っている惑星の回転速度は、外側を回っている惑星より早くなっています。(ケプラーの法則) 太陽系においては全質量は太陽の一点に集中していますが(銀河系の全質量は、99.9%、太陽が担っています。)、一方、銀河系の質量はそうではなく隅から隅まで分布しています。しかし銀河系の写真を見ると、中心部(バルジ)が最も明るく、密度も高そうに見えます。もし、中心の密度が高いとすれば、重力による引力は中心付近で最も大きくなって、太陽系と同じように、中心付近の星の回転速度が早く、外側のそれが遅くなるはずです。しかし、観測によると、銀河系の内側の星も外側の星もほぼ同じ速度で回転していることがわかっています。このことから、銀河の中心から離れた外部領域には見ることのできない相当大きな質量があることになります。
 この見えない質量のことはダークマターとよばれ、この量は、可視総質量より、10倍は大きいとされています。このダークマターがどのような形で存在するかは、現時点では不明であり、天文学の大きな課題となっています。

さて、話が長くなりましたが、ここで本題である銀河団の質量Mの問題に戻ります。上に述べたように銀河系の質量MGは大体
MG≒10×MGv
とおいて、これから、銀河団の質量Mを計算するさいの基本単位である太陽系の質量MSを
MS≒10×(太陽質量)
として、計算することもできますが、ダークマターがどんなものかわからないので、ここでは10倍せず、可視質量のみで考えることにします。そうすると、
銀河団の質量M=(銀河団を構成する恒星の数)×標準的な恒星の質量
であり、標準的な恒星の質量を太陽質量とすると、太陽質量は2×1033gですから、
銀河団の質量M=1013×2×1033=2×1046[g]
となります。つまり、三千大千世界の質量Mは、
M=2×1046[g]となります。

[Mの最大値Mmaxは上の議論よりMmax=2×1047
 
 
 
 
(3)是の諸の世界の数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・n
次に寿量品の文にはいります。

【譬えば五百千万億那由侘阿僧祗の三千大千世界を仮使人あって抹して微塵と為して、東方五百千万億 那由侘阿僧祗の国を過ぎて乃ち一塵を下し、是の如く東に行いてこの微塵を尽くさんが如き、諸の 善男子、意に於いて云何、是の諸の世界は思惟し校計して其の数を知ることを得べしや否や】

ここでは、上の経文で説かれている是の諸の世界の数をnとし、nを以下求めます。
(3)−@【五百千万億那由侘阿僧祗の三千大千世界を仮使人あって抹して微塵と為して】
ここでは五百千万億那由侘阿僧祗(=a)倍の三千大千世界を全部微塵にすると云っているので、その微塵の数n1は、

五百千万億那由侘阿僧祗×三千大千世界の質量 M

n1 = = a・ (1式)
微塵の質量 Δm
 

とおくことにします。ここでΔmは微塵の質量です。
(一式)の意味するところは、次のようなものです。宇宙には、水素、ヘリウムのような軽い元素から、ウランのように重たい元素までがあります。
この元素の存在比率(質量比)は、水素が75%、ヘリウムが24%で、あとの1%を残りの元素が担っています。(太陽の元素比率もほぼ同じです)つまり、水素やヘリウムが圧倒的に多いわけです。
さて、経文の抹して微塵にするというのをどう考えるかですが、水素やヘリウムのような気体を、固体のように抹して微塵にできませんし、また、微塵にする対象を固体だけに限ったとしても、固体でも密度や硬度が違いますから、抹して微塵にして、どれくらいの数の微塵ができるかはわかりません。そこで、次のように考えました。星の一生の最後に超新星爆発が起きますがこのときの中心部分の主成分は鉄なので、全質量を一旦、鉄に変えて、その鉄を抹して微塵にしたときの微塵の数を計算するというものです。
しかし、もし(1式)のように微塵にする対象を全質量でなく、固体だけに限るとしたら、その数は(1式)の1/100以下になるかもしれません。(ゆえに、Mmin=M/100 ともおける。)
さて、つぎに残りの経文に進みます。

(3)−A【東方五百千万億那由侘阿僧祗の国を過ぎて乃ち一塵を下し、是の如く東に行いてこの 微塵を尽くさんが如き、諸の善男子、意に於いて云何、是の諸の世界は思惟し校計して其の数を 知ることを得べしや否や】
 次に、上のn1の数だけの五百千万億那由侘阿僧祗の国の数を考え、これを是の諸の世界の数とすると 云っています。そこで、是の諸の世界の数をnとすると、nは、

n=n1×五百千万億那由侘阿僧祗
M M 


= a× × a = a2・ (2式) Δm Δm

となります。尚、「是の諸の世界の数」というのは、正確には、是の諸の三千大千世界の数とここでは解釈します。定数であるa(五百千万億那由侘阿僧祗)とM(三千大千世界の質量)については、(1)と(2)で述べましたので、次に微塵の質量Δmについて述べます。
 

(3)−B 微塵の質量 Δm

微塵の質量ですが、質量だと大きさがイメージできないので、微塵を球だとして、その直径dを決めたいと思います。経文には抹して、微塵にするとあります。鉄の棒をヤスリで削ると、削りでた鉄粉の大きさは、だいたい数10μm(0.01mm)から数μm程度の大きさです。[1μ(ミクロン)は、1/1000mmで、たとえば人の髪の毛の太さは、100ミクロンぐらいです。)また、その鉄粉の1粒をつかむのは素手ではできません。ピンセットを使うしかありませんが、”ミクロンをつかむことができる”としている高価なピンセットも売られています。実際に1塵をつかむのではなく、頭の中で考えるだけでよいのなら、原子のレベルまで小さな微塵を考えることができますが、ここでは、このぐらいの大きさなら充分確実に細かくできて、その一粒一粒をピンセットでつかむことができる大きさとして、10μm(0.01mm)のサイズのものをまず考えます。

直径10μmの鉄球の質量Δm=ρ・4/3・π(d/2)3 (ρ;鉄の密度[g/cm3])
=7.86×4/3×π×(10−3/2)3
=4×10−9[g]
 

しかし、もし微塵の質量Δmとして原子のサイズより小さい陽子を考えるならば、
Δmの最小値Δmminは

Δmmin =1.7×10−24[g]

となります。
 
 
 
 
 
(4).五百塵点劫の時間・・・・・・・・・・・・・T[年]

経文の次のステップに進み、無数の国々の数を時間にかえます。

【是の諸の世界の若しは微塵を著き及び微塵を著かざる者を尽く以て塵とし為して、一塵を一劫と せん。我成仏してより以来、復此れに過ぎたること百千万億那由侘阿僧祗劫なり】

ここで、まず
【是の諸の世界の若しは微塵を著き及び微塵を著かざる者を尽く以て塵とし為して、一塵を一劫とせん。】を考えます。
上の(3)で述べた「是の諸の世界の数」の三千大千世界を全部、微塵にしたときの微塵の個数をNとします。するとNは、

是の諸の世界の数 × 三千大千世界の質量 M

N == n × (3式)
微塵の質量 Δm
 

となります。

次に、【一塵を一劫とせん】とあります。一劫の長さをbとするとb=800万年ですか
ら、b=8×10[年/塵]と成ります。

また、次の【我成仏してより以来、復此れに過ぎたること 百千万億那由侘阿僧祗劫なり】で、百千万億那由侘阿僧祗劫をΔt[年]とし、五百塵点劫の長さをT[年]とすると、

T = (b×N)+Δt (4式)

となりますが、後に示すように、Δtの値はTの値に対し無視できるほど小さいので、Δtを外して計算します。すると、最終的に五百塵点劫の長さT[年]は、次のように表すことができます。

T = b×N

M M


= b×n× (∵ 3式より N= n×)
Δm Δm
M M M

= b× a2×× (∵ 2式より n= a2×)
Δm Δm Δm
 

M 2



∴ T = b× (a×) (5式)
Δm

ここで、
b=8×10[年/塵]

a=5×1076 (aの最小値amin=5×1075、最大値amax=5×1086

M=2×1046[g] (Mの最大値Mmax=2×1047
Δm=4×10−9[g] (Δmmin =1.7×10−24[g])

であるので、これを代入すると、
T =5×10269 ≒10270 [年]

となる。また、Tの最小値をTmin、最大値をTmaxとすると、
Tmin =5×10267 ≒10263 [年]
Tmax =3×10306 ≒10322 [年]

となります。

次に、さきほど、”Tに比べて無視できる大きさである”と述べたΔt[年]について、一応計算してみます。

Δt[年]は百千万億那由侘阿僧祗劫であるので、
∴Δt=(1/5)×a×b
=(1/5)×5×1076×8×10
=8×1082
≒1083[年]

となり、T≒10270[年]に比べて、Δt≒1083[年]は、充分小さいので、無視するとができます。

以上
 
 
 
 
 
(5)まとめ
 
以上をまとめると、つぎのようになります。

1、五百塵点劫の昔とは、今から約10270[年]ぐらい前のことである。

 上の計算の条件として、億=10、那由侘=1011、阿僧祗=1051として計算しました。また、「三千大千世界」を恒星を1013個集めた銀河団とし、1恒星系の質量を2×1046[g]として、この銀河団全質量を鉄にかえて、直径0.01mm(10ミクロン)の微塵球にすりつぶしたと仮定して、計算しました。

2、微塵の大きさを陽子の大きさぐらいまで小さくしたり、他の条件などを変えて計算すると、
 五百塵点劫の昔とは、だいたい、10263〜10322[年]の範囲の間にある。
いずれにしても、10260[年]を下回ることはありません。

3、上で使用した計算式および定数は以下の通りです。

M 2 T = b×(a× ) + Δt (6式)
Δm
 
 
代表値 最小値 最大値
T[年]:五百塵点劫の昔までの年数 5×10269 5×10263 2×10322
a :五百千万億那由侘阿僧祗 5×1076 5×1075 5×1086
M[g]:三千大千世界の質量 2×1046 2×1044 2×1047
Δm[g]:微塵の質量 4×10−9 2×10−24 −−−−−
b[年]:1微塵あたりの劫(年数) 8×10 −−−−− −−−−−
Δt[年]:百千万億那由侘阿僧祗劫 8×1082 8×1083 8×1092
 
 
(6)参考文献

*1、戸田城聖講述、日蓮正宗方便品壽量品精解、精文館書店、p123〜126、昭和33年3月13日再版
*2、池田名誉会長、法華経を語る(聖教新聞連載)、聖教新聞社
*3、池田大作・ウィックラマシンゲ著、「宇宙」と「人間」のロマンを語る −天文学と仏教の対話、
毎日新聞社、1992年11月18日発行。
*4、仏教哲学大辞典編纂会、仏教哲学大事典第3巻、
*5、国立天文台編、理科年表、平成4年第65冊、天文部(地球、銀河系、銀河団)、
物理/化学部(物性)
*6、Barry Parker著・並木雅俊訳、宇宙のミステリー ダークマター、丸善梶A平成3年9月30日発行
*7、ガモフ著、最新の宇宙像