聖人知三世事

聖人知三世事  / 建治元年 五十四歳御作

+             与富木常忍

 聖人と申すは委細に三世を知るを聖人と云う、儒家の三皇五帝並びに三聖は但現在を知つて過未を知らず外道

は過去八万未来八万を知る一分の聖人なり、小乗の二乗は過去未来の因果を知る外道に勝れたる聖人なり、小乗

の菩薩は過去三僧祇菩薩、通教の菩薩は過去に動踰塵劫を経歴せり、別教の菩薩は一一の位の中に多倶低劫の過

去を知る、法華経の迹門は過去の三千塵点劫を演説す一代超過是なり、本門は五百塵点劫過去遠遠劫をも之を演

説し又未来無数劫の事をも宣伝し、之に依つて之を案ずるに委く過未を知るは聖人の本なり、教主釈尊既に近く

は去つて後三月の涅槃之を知り遠くは後五百歳広宣流布疑い無き者か、若し爾れば近きを以て遠きを推し現を以

て当を知る如是相乃至本末究竟等是なり。

 後五百歳には誰人を以て法華経の行者と之を知る可きや予は未だ我が智慧を信ぜず然りと雖も自他の返逆侵逼

之を以て我が智を信ず敢て他人の為に非ず又我が弟子等之を存知せよ日蓮は是れ法華経の行者なり不軽の跡を紹

継するの故に軽毀する人は頭七分に破信ずる者は福を安明に積まん、問うて云く何ぞ汝を毀る人頭破七分無きや

、答えて云く古昔の聖人は仏を除いて己外之を毀る人頭破但一人二人なり今日蓮を毀呰する事は非一人二人に限

る可らず日本一国一同に同じく破るるなり、所謂正嘉の大地震文永の長星は誰か故ぞ日蓮は一閻浮提第一の聖人

なり、上一人より下万民に至るまで之を軽毀して刀杖を加え流罪に処するが故に梵と釈と日月四天と隣国に仰せ

付けて之を逼責するなり、大集経に云く仁王経に云く涅槃経に云く法華経に云く設い万祈を作すとも日蓮を用い

ずんば必ず此の国今の壱岐対馬の如くならん、我が弟子仰いで之を見よ

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此れ偏に日蓮が貴尊なるに非ず法華経の御力の殊勝なるに依るなり、身を挙ぐれば慢ずと想い身を下せば経を蔑

る松高ければ藤長く源深ければ流れ遠し、幸なるかな楽しいかな穢土に於て喜楽を受くるは但日蓮一人なる而已