四条金吾殿御返事

四条金吾殿御返事

 態と御使喜び入つて候、又柑子五十鵞目五貫文給び候い畢んぬ、各各御供養と云云、又御文の中に云く去る十

六日に有る僧と寄合うて候時諸法実相の法門を申し合いたりと云云、今経は出世の本懐一切衆生皆成仏道の根元

と申すも只此の諸法実相の四字より外は全くなきなり、されば伝教大師は万里の波涛をしのぎ給いて相伝しまし

ます此の文なり、一句万了の一言とは是なり、当世天台宗の開会の法門を申すも此の経文を悪く意得て邪義を云

い出し候ぞ、只此の経を持ちて南無妙法蓮華経と唱えて正直捨方便但説無上道と信ずるを諸法実相の開会の法門

とは申すなり、其の故は釈迦仏多宝如来十方三世の諸仏を証人とし奉り候なり、相構えてかくの如く心得させ給

いて諸法実相の四の文字を時時あぢわへ給うべし良薬に毒をまじうる事有るべきやうしほの中より河の水を取り

出す事ありや、月は夜に出日は昼出で給う此の事諍ふべきや、此れより後には加様に意得給いて御問答あるべし

、但し細細は論難し給うべからず、猶も申さばそれがしの師にて候日蓮房に御法門候へとうち咲うて打ち返し打

ち返し仰せ給うべく候。

  法門を書きつる間御供養の志は申さず候、有り難し有り難し委くは是よりねんごろに申すべく候。

= 建治元年乙亥七月二十二日 日蓮花押

% 四条中務三郎左衛門尉殿御返事

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