四条金吾御書

四条金吾御書   /建治四年一月 五十七歳御作

 鷹取のたけ身延のたけなないたがれのたけいいだにと申し、木のもとかやのねいわの上土の上いかにたづね候

へどもをひて候ところなし、されば海にあらざればわかめなし山にあらざればくさびらなし、法華経にあらざれ

ば仏になる道なかりけるかこれはさてをき候いぬ、なによりも承りてすずしく候事はいくばくの御にくまれの人

の御出仕に人かずにめしぐせられさせ給いて、一日二日ならず御ひまもなきよしうれしさ申すばかりなし、えも

ん(右衛門)のたいうのをやに立ちあひて上の御一言にてかへりてゆりたると殿のすねんが間のにくまれ去年の

ふゆはかうとききしにかへりて日日の御出仕の御ともいかなる事ぞ、ひとへに天の御計い法華経の御力にあらず

や、其の上円教房の来りて候いしが申し候は、えまの四郎殿の御出仕に御とものさふらい二十四五其の中にしう

はさてをきたてまつりぬ、ぬしのせいといひかをたましひむま下人までも中務のさえもんのじやう(左衛門尉)

第一なり、あはれをとこ(天晴男)やをとこやとかまくらわらはべはつじちにて申しあひて候しとかたり候。

 これにつけてもあまりにあやしく候、孔子は九思一言周公旦は浴する時は三度にぎり食する時は三度はかせ給

う、古の賢人なり今の人のかがみなり、されば今度はことに身をつつしませ給うべし、よるはいかなる事ありと

も一人そとへ出でさせ給うべからず、たとひ上の御めし有りともまづ下人をこそへつかわして、なひなひ一定を

ききさだめてはらまきをきてはちまきし、先後左右に人をたてて出仕し御所のかたわらに心よせのやかたか又我

がやかたかにぬぎをきてまいらせ給うべし、家へかへらんにはさきに人を入れてとのわきはしのしたむまやのし

りたかどの一切くらきところをみせて入るべし

P1176

せうまうには我が家よりも人の家よりもあれたからををしみてあわてて火をけすところへづつとよるべからず、

まして走り出る事なかれ、出仕より主の御ともして御かへりの時はみかどより馬よりをりて、いとまのさしあう

よしはうくわんに申していそぎかへるべし、上のををせなりともよに入りて御ともして御所にひさしかるべから

ず、かへらむには第一心にふかきえうじんあるべし、ここをばかならずかたきのうかがうところなり。

 人のさけたばんと申すともあやしみてあるひは言をいだしあるひは用いることなかれ、又御をととどもには常

はふびんのよしあるべし、つねにゆせにざうりのあたいなんど心あるべし、もしやの事のあらむにはかたきはゆ

るさじ、我がためにいのちをうしなはんずる者ぞかしとをぼして、とがありともせうせうの失をばしらぬやうに

てあるべし、又女るひはいかなる失ありとも一向に御けうくんまでもあるべからず、ましていさかうことなかれ

、涅槃経に云く「罪極て重しと雖も女人に及ぼさず」等云云、文の心はいかなる失ありとも女のとがををこなは

ざれ、此れ賢人なり此れ仏弟子なりと申す文なり、此の文は阿闍世王父を殺すのみならず母をあやまたむとせし

時耆婆月光の両臣がいさめたる経文なり、我が母心ぐるしくをもひて臨終までも心にかけしいもうとどもなけれ

ば失をめんじて不便というならば母の心やすみて孝養となるべしとふかくおぼすべし、他人をも不便というぞか

しいわうやをとをとどもをや、もしやの事の有るには一所にていかにもなるべし、此等こそとどまりゐてなげか

んずればをもひでにとふかくをぼすべし、かやう申すは他事はさてをきぬ、雙六は二ある石はかけらず、鳥の一

の羽にてとぶことなし、将門さだたふがやうなりしいふしやうも一人は叶わず、されば舎弟等を子とも郎等とも

うちたのみてをはせば、もしや法華経もひろまらせ給いて世にもあらせ給わば一方のかたうどたるべし。

 すでにきやうのだいり院のごそかまくらの御所並に御うしろみの御所一年が内に二度正月と十二月とにやけ候

いぬ、

P1177

これ只事にはあらず謗法の真言師等を御師とたのませ給う上かれら法華経をあだみ候ゆへに天のせめ法華経十羅

刹の御いさめあるなり、かへりて大ざんげあるならばたすかるへんもあらんずらん、いたう天の此の国ををしま

せ給うゆへに大なる御いさめあるか、すでに他国が此の国をうちまきて国主国民を失はん上仏神の寺社百千万が

ほろびんずるを天眼をもつて見下してなげかせ給うなり、又法華経の御名をいういうたるものどもの唱うるを誹

謗正法の者どもがをどし候を天のにくませ給う故なり。

 あなかしこあなかしこ、今年かしこくして物を御らんぜよ、山海空市まぬかるところあらばゆきて今年はすぎ

ぬべし、阿私陀仙人が仏の生れ給いしを見て、いのちををしみしがごとしをしみしがごとし、恐恐謹言。

=正月二十五日                   日蓮花押

  %中務左衛門尉殿

P1178