六郎恒長御消息

六郎恒長御消息               /文永元年九月 四十三歳御作

+ 与南部六郎恒長    於安房

 所詮念仏を無間地獄と云う義に二つ有り、一には念仏者を無間地獄とは日本国一切念仏衆の元祖法然上人の選

択集に浄土三部を除いてより以外一代聖教所謂法華経大日経大般若経等一切大小の経を書き上げて捨閉閣抛等云

云、之に付いて上人亀鏡と挙られし処の浄土三部経の其の中に、雙観経阿弥陀仏の因位法蔵比丘の四十八願に云

く唯五逆と誹謗正法とを除くと云云、法然上人も乃至十念の中には入れ給ふといえども、法華経の門を閉じよと

書かれ候へば阿弥陀仏の本願に漏れたる人に非ずや、其の弟子其の檀那等も亦以て此くの如し、法華経の文には

若し人信ぜずして、乃至其の人命終して阿鼻獄に入らんと云云、阿弥陀仏の本願と法華経の文と真実ならば法然

上人は無間地獄に堕ちたる人に非ずや、一切の経の性相に定めて云く師堕つれば弟子堕つ弟子堕つれば檀那堕つ

と云云、譬えば謀叛の者の郎従等の如し、御不審有らば選択を披見あるべし[是一]。

 二には念仏を無間地獄とは法華経の序分無量義経に云く「方便の力を以て四十年には未だ真実を顕さず」云云

、次下の文に云く「無量無辺を過ぐるとも乃至終に無上菩提を成ずることを得じ」云云、仏初成道の時より白鷺

池の辺に至るまで年紀をあげ四十余年と指して其の中の一切経を挙ぐる中に大部の経四部其の四部の中に次に方

等十二部経を説くと云云、是れ念仏者の御信用候三部経なり、此れを挙げて真実に非ずと云云、

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次に法華経に云く「世尊の法は久しくして後要当に真実を説くべし」とは念仏等の不真実に対し南無妙法蓮華経

を真実と申す文なり、次下に云く「仏は自ら大乗に住したまへり乃至若し小乗を以て化すること乃至一人に於て

せば我即ち慳貪に堕す此の事は為て不可なり」云云、此の文の意は法華経を仏胸に秘しをさめて観経念仏等の四

十余年の経計りを人人に授けて法華経を説かずして黙止するならば我は慳貪の者なり三悪道に堕すべしと云う文

なり、仏すら尚唯念仏を行じて一生をすごし法華経に移らざる時は地獄に堕すべしと云云、況や末代の凡夫一向

に南無阿弥陀仏と申して一生をすごし法華経に移つて南無妙法蓮華経と唱えざる者三悪道を免るべきや、第二の

巻に云く今此三界等と云云、此の文は日本国六十六箇国嶋二つの大地は教主釈尊の本領なり娑婆以て此くの如く

全く阿弥陀の領に非ず、其中衆生悉是吾子と云云、日本国の四十九億九万四千八百二十八人の男女各父母有りと

いへども其の詮を尋ぬれば教主釈尊の御子なり、三千余社の大小の神祇も釈尊の御子息なり全く阿弥陀仏の子に

非ざるなり。

=文永元年甲子九月 日                  日蓮花押

%  南部六郎恒長殿