窪尼御前御返事

窪尼御前御返事 /弘安四年十二月 六十歳御作

 しなじなのものをくり給て候。

 善根と申すは大なるによらず又ちいさきにもよらず国により人により時によりやうやうにかわりて候、譬へば

くそをほしてつきくだきふるいてせんだんの木につくり又女人天女仏につくりまいらせて候へども火をつけてや

き候へばべちの香なしくそくさし、そのやうにものをころしぬすみをしてそのはつををとりて功徳善根をして候

へどもかへりて悪となる。

 須達長者と申せし人は月氏第一の長者ぎをん精舎をつくりて仏を入れまいらせたりしかども彼の寺焼けてあと

なし、

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この長者もといををころしてあきなへて長者となりしゆへにこの寺つゐにうせにき、今の人人の善根も又かくの

ごとく大なるやうなれどもあるひはいくさをして所領を給或はゆへなく民をわづらはしてたからをまうけて善根

をなす、此等は大なる仏事とみゆれども仏にもならざる上其の人人あともなくなる事なり。

 又人をもわづらはさず我が心もなをしく我とはげみて善根をして候も仏にならぬ事もあり、いはくよきたねを

あしき田にうえぬればたねだにもなき上かへりて損となる、まことの心なれども供養せらるる人だにもあしけれ

ば功徳とならず、かへりて悪道におつる事候。

 此れは日蓮を御くやうは候はず法華経の御くやうなれば釈迦仏多宝仏十方の諸仏に此の功徳はまかせまいらせ

候、抑今年の事は申しふりて候上当時はとしのさむき事生れて已来いまだおぼへ候わず、ゆきなんどのふりつも

りて候事おびただし、心ざしある人もとぶらひがたし、御をとづれをぼろげの御心ざしにあらざるか、恐恐謹言

= 十二月二十七日    日  蓮 花 押

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