日興遺誡置文

日興遺誡置文

夫れ以みれば末法弘通の恵日は極悪謗法の闇を照し久遠寿量の妙風は伽耶始成の権門を吹き払う、於戲仏法に

値うこと希にして喩を曇華の蕚に仮り類を浮木の穴に比せん、尚以て足らざる者か、爰に我等宿縁深厚なるに依

つて幸に此の経に遇い奉ることを得、随つて後学の為に条目を筆端に染むる事、偏に広宣流布の金言を仰がんが

為なり。

一、富士の立義聊も先師の御弘通に違せざる事。

一、五人の立義一一先師の御弘通に違する事。

一、御書何れも偽書に擬し当門流を毀謗せん者之有る可し、若し加様の悪侶出来せば親近す可からざる事。

一、偽書を造つて御書と号し本迹一致の修行を致す者は師子身中の虫と心得可き事。

一、謗法を呵責せずして遊戲雑談の化儀並に外書歌道を好む可からざる事。

一、檀那の社参物詣を禁ず可し、何に況や其の器にして一見と称して謗法を致せる悪鬼乱入の寺社に詣ず可けん

や、返す返すも口惜しき次第なり、是れ全く己義に非ず経文御抄等に任す云云。

一、器用の弟子に於ては師匠の諸事を許し閣き御抄以下の諸聖教を教学す可き事。

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一、学問未練にして名聞名利の大衆は予が末流に叶う可からざる事。

一、予が後代の徒衆等権実を弁えざる間は父母師匠の恩を振り捨て出離証道の為に本寺に詣で学文す可き事。

一、義道の落居無くして天台の学文す可からざる事。

一、当門流に於ては御書を心肝に染め極理を師伝して若し間有らば台家を聞く可き事。

一、論議講説等を好み自余を交ゆ可からざる事。

一、未だ広宣流布せざる間は身命を捨て随力弘通を致す可き事。

一、身軽法重の行者に於ては下劣の法師為りと雖も当如敬仏の道理に任せて信敬を致す可き事。

一、弘通の法師に於ては下輩為りと雖も老僧の思を為す可き事。

一、下劣の者為りと雖も我より智勝れたる者をば仰いで師匠とす可き事。

一、時の貫首為りと雖も仏法に相違して己義を構えば之を用う可からざる事。

一、衆議為りと雖も仏法に相違有らば貫首之を摧く可き事。

一、衣の墨黒くすべからざる事。

一、直綴を着す可からざる事。

一、謗法と同座す可からず与同罪を恐る可き事。

一、謗法の供養を請く可からざる事。

一、刀杖等に於ては仏法守護の為に之を許す。

 但し出仕の時節は帯す可からざるか、若し其れ大衆等に於ては之を許す可きかの事。

一、若輩為りと雖も高位の檀那自り末座に居る可からざる事。

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一、先師の如く予が化儀も聖僧為る可し、但し時の貫首或は習学の仁に於ては設い一旦の剩ニ有りと雖も衆徒に

 差置く可き事。

一、巧於難問答の行者に於ては先師の如く賞翫す可き事。

 右の条目大略此くの如し、万年救護の為に二十六箇条を置く後代の学侶敢て疑惑を生ずる事勿れ、此の内一箇

条に於ても犯す者は日興が末流に有る可からず、仍つて定むる所の条条件の如し。

元弘三年[癸酉]正月十三日