日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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兄弟抄

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又ふししづませ給いしかば、宇治の王子いきかへりてやうやうにをほせをかせ給いて又ひきいらせ給いぬ、さて仁徳位につかせ給いたりしかば国をだやかなる上しんらはくさひかうらいも日本国にしたがひてねんぐを八十そうそなへけるとこそみへて候へ。

 賢王のなかにも兄弟をだやかならぬれいもあるぞかしいかなるちぎりにて兄弟かくはをはするぞ浄蔵浄眼の二人の太子の生れかはりてをはするか薬王薬上の二人か、大夫志殿の御をやの御勘気はうけ給わりしかどもひやうへの志殿の事は今度はよもあににはつかせ給はじさるにてはいよいよ大夫志殿のをやの御不審はをぼろげにてはゆりじなんどをもつて候へばこのわらわの申し候はまことにてや候らん、御同心と申し候へばあまりのふしぎ(不思議)さに別の御文をまいらせ候、未来までのものがたりなに事かこれにすぎ候べき。

 西域と申す文にかきて候は月氏に婆羅・斯国施鹿林と申すところに一の隠士あり仙の法を成ぜんとをもう、すでに瓦礫を変じて宝となし人畜の形をかえけれどもいまだ風雲にのつて仙宮にはあそばざりけり、此の事を成ぜんがために一の烈士をかたらひ長刀をもたせて壇の隅に立てて息をかくし言をたつ、よひよりあしたにいたるまでものいはずば仙の法成ずべし、仙を求る隠士は壇の中に坐して手に長刀をとつて口に神呪をずうす約束して云く設ひ死なんとする事ありとも物言う事なかれ烈士云く死するとも物いはじ、此の如くして既に夜中を過ぎて夜まさにあけんとする時、如何が思いけん烈士大に声をあげて呼はる、既に仙の法成ぜず、隠士烈士に言つて云く何に約束をばたがふるぞ口惜しき事なりと云う、烈士歎いて云く少し眠つてありつれば昔し仕へし主人自ら来りて責めつれども師の恩厚ければ忍で物いはず、彼の主人怒つて頚をはねんと云う、然而又ものいはず、遂に頚を切りつ中陰に趣く我が屍を見れば惜く歎かし然而物いはず、遂に南印度の婆羅門の家に生れぬ入胎出胎するに大苦忍びがたし然而息を出さず、又物いはず已に冠者となりて妻をとつぎぬ、又親死ぬ又子をまうけたり、


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満月城岡山ポケット版御書