日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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千日尼御前御返事

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 かかるいみじき法華経と申す御経はいかなる法門ぞと申せば、一の巻方便品よりうちはじめて菩薩二乗凡夫皆仏になり給うやうをとかれて候へどもいまだ其のしるしなし、設えば始めたる客人が相貌うるわしくして心もいさぎよくよく口もきいて候へばいう事疑なけれどもさきも見ぬ人なればいまだあらわれたる事なければ語のみにては信じがたきぞかし、其の時語にまかせて大なる事度度あひ候へばさては後の事もたのもしなんど申すぞかし、一切信じて信ぜられざりしを第五の巻に即身成仏と申す一経第一の肝心あり、譬へばくろき物を白くなす事漆を雪となし不浄を清浄になす事濁水に如意珠を入れたるがごとし、竜女と申せし小蛇を現身に仏になしてましましき、此の時こそ一切の男子の仏になる事をば疑う者は候はざりしか、されば此の経は女人成仏を手本としてとかれたりと申す、されば日本国に法華経の正義を弘通し始めましませし叡山の根本伝教大師の此の事を釈し給うには「能化所化倶に歴劫無し妙法経力即身成仏す」等、漢土の天台智者大師法華経の正義をよみはじめ給いしには「他経は但男に記して女に記せず乃至今経は皆記す」等云云、此れは一代聖教の中には法華経第一法華経の中には女人成仏第一なりとことわらせ給うにや、されば日本の一切の女人は法華経より外の一切経には女人成仏せずと嫌うとも法華経にだにも女人成仏ゆるされなばなにかくるしかるべき。

 しかるに日蓮はうけがたくして人身をうけ値いがたくして仏法に値い奉る、一切の仏法の中に法華経に値いまいらせて候、其の恩徳ををもへば父母の恩国主の恩一切衆生の恩なり、父母の恩の中に慈父をば天に譬へ悲母をば大地に譬へたりいづれもわけがたし、其の中にも悲母の大恩ことにほうじがたし、此れを報ぜんとをもうに外典の三墳五典孝経等によて報ぜんとをもへば現在をやしないて後世をたすけがたし、身をやしない魂をたすけず内典の仏法に入りて五千七千余巻の小乗大乗は女人成仏かたければ悲母の恩報じがたし小乗は女人成仏一向に許されず、大乗経は或は成仏或は往生を許たるやうなれども仏の仮言にて実事なし、


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満月城岡山ポケット版御書