<前
P1576 次>子はかたきと申す経文ゆわれて候、又子は財と申す経文あり、妙壮厳王は一期の後無間大城と申す地獄へ堕ちさせ給うべかりしが浄蔵と申せし太子にすくわれて大地獄の苦をまぬがれさせ給うのみならず娑羅樹王仏と申す仏とならせ給う、生提女と申せし女人は慳貪のとがによつて餓鬼道に堕ちて候いしが目連と申す子にたすけられて餓鬼道を出で候いぬ、されば子を財と申す経文たがう事なし。
故五郎殿はとし十六歳心ねみめかたち人にすぐれて候いし上男ののうそなわりて万人にほめられ候いしのみならず、をやの心に随うこと水のうつわものにしたがいかげの身にしたがうがごとし、いへにてははしらとたのみ道にてはつへとをもいき、はこのたからもこの子のためつかう所従もこれがため、我しなばになわれてのぼへゆきなんのちのあとをもいをく事なしとふかくをぼしめしたりしにいやなくさきにたちぬればいかんにやいかんにやゆめかまぼろしかさめなんさめなんとをもへどもさめずしてとしも又かへりぬ、いつとまつべしともをぼへず、ゆきあうべきところだにも申しをきたらばはねなくとも天へものぼりなん、ふねなくとももろこしへもわたりなん、大地のそこにありときかばいかでか地をもほらざるべきとをぼしめすらむ。
やすやすとあわせ給うべき事候、釈迦仏を御使としてりやうぜん浄土へまいりあわせ給へ、若有聞法者無一不成仏と申して大地はささばはづるとも日月は地に堕ち給うともしをはみちひぬ世はありとも花はなつにならずとも南無妙法蓮華経と申す女人のをもう子にあわずという事はなしととかれて候ぞ、いそぎいそぎつとめさせ給へつとめさせ給へ、恐恐謹言。
=正月十三日 日蓮花押
% 上野尼御前御返事
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