日蓮大聖人御書
ネット御書
(聖愚問答抄上)
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釈尊をば無明に迷へる仏なりとありとも権教実教大乗小乗説時の前後訳者能く能く尋ぬべし、所謂老子孔子は九思一言三思一言周公旦は食するに三度吐き沐するに三度にぎる外典のあさき猶是くの如し況や内典の深義を習はん人をや、其の上此の義経論に迹形もなし人を毀り法を謗じては悪道に堕つべしとは弘法大師の釈なり必ず地獄に堕んこと疑い無き者なり。
 爰に愚人茫然とほれ忽然となげひて良久しうして云く此の大師は内外の明鏡衆人の導師たり徳行世に勝れ名誉普く聞えて或は唐土より三鈷を八万余里の海上をなぐるに即日本に至り或は心経の旨をつづるに蘇生の族途に彳む、然れば此の人ただ人にあらず大聖権化の垂迹なり仰いで信を取らんにはしかじ、聖人云く予も始めは然なり但し仏道に入つて理非を勘へ見るに仏法の邪正は必ず得通自在にはよらず是を以て仏は依法不依人と定め給へり前に示すが如し、彼の阿伽陀仙は恒河を片耳にただへて十二年耆兎仙は一日の中に大海をすひほす張階は霧を吐き欒巴は雲を吐く然れども未だ仏法の是非を知らず因果の道理をも弁へず、異朝の法雲法師は講経勤修の砌に須臾に天華をふらせしかども妙楽大師は感応斯くの如きも猶理に称わずとていまだ仏法をばしらずと破し給う、夫れ此の法華経と申すは已今当の三説を嫌つて已前の経をば未顕真実と打破り肩を並ぶる経をば今説の文を以てせめ已後の経をば当説の文を以て破る実に三説第一の経なり、第四の巻に云く「薬王今汝に告ぐ我所説の経典而かも此の経の中に於て法華最第一なり」文、此の文の意は霊山会上に薬王菩薩と申せし菩薩に仏告げて云く始華厳より終涅槃経に至るまで無量無辺の経恒河沙等の数多し其の中には今の法華経最第一と説かれたり、然るを弘法大師は一の字を三と読まれたり、同巻に云く「我仏道の為に無量の土に於て始より今に至るまで広く諸経を説く而も其の中に於て此の経第一なり」と、此の文の意は又釈尊無量の国土にして或は名字を替え或は年紀を不同になし種種の形を現して説く所の諸経の中には此の法華経を第一と定められたり、同き第五巻には最在其上と宣べて


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