日蓮大聖人御書
ネット御書
(祈祷抄)
<1.前 P1351 2.次>

 やうやう心ぼそくなりし程に「郤後三月当般涅槃」と唱えさせ給いし事こそ心ぼそく耳をどろかしかりしかば諸菩薩二乗人天等ことごとく法華経を聴聞して仏の恩徳心肝にそみて、身命をも法華経の御ために投て仏に見せまいらせんと思いしに仏の仰の如く若し涅槃せさせ給はばいかにあさましからんと胸さはぎしてありし程に仏の御年満八十と申せし二月十五日の寅卯の時東天竺舎衛国倶尸那城跌提河の辺にして仏御入滅なるべき由の御音上は有頂横には三千大千界までひびきたりしこそ目もくれ心もきえはてぬれ、五天竺十六の大国五百の中国十千の小国無量の粟散国等の衆生一人も衣食を調へず上下をきらはず、牛馬狼狗汚hオカ等の五十二類の一類の数大地微塵をもつくしぬべし況や五十二類をや、此の類皆華香衣食をそなへて最後の供養とあてがひき、一切衆生の宝の橋おれなんとす一切衆生の眼ぬけなんとす一切衆生の父母主君師匠死なんとすなんど申すこえひびきしかば身の毛のいよ立のみならず涙を流す、なんだをながすのみならず頭をたたき胸ををさへ音も惜まず叫びしかば血の涙血のあせ倶尸那城に大雨よりもしげくふり大河よりも多く流れたりき、是れ偏えに法華経にして仏になりしかば仏の恩の報ずる事かたかりしなり。
 かかるなげきの庭にても法華経の敵をば舌をきるべきよし座につらなるまじきよしののしり侍りき、迦葉童子菩薩は法華経の敵の国には霜雹となるべしと誓い給いき、爾の時仏は臥よりをきてよろこばせ給いて善哉善哉と讃め給いき、諸菩薩は仏の御心を推して法華経の敵をうたんと申さば、しばらくもいき給いなんと思いて一一の誓はなせしなり、されば諸菩薩諸天人等は法華経の敵の出来せよかし仏前の御誓はたして釈迦尊並びに多宝仏諸仏如来にもげに仏前にして誓いしが如く、法華経の御ためには名をも身命をも惜まざりけりと思はれまいらせんとこそおぼすらめ。
 いかに申す事はをそきやらん、大地はささばはづるるとも虚空をつなぐ者はありとも潮のみちひぬ事はありとも日は西より出づるとも法華経の行者の祈りのかなはぬ事はあるべからず、


<1.前 P1351 2.次>