日蓮大聖人御書
ネット御書
(乙御前御消息)
<1.前 P1220 2.次>

鎌倉に候いし時は念仏者等はさてをき候いぬ、法華経を信ずる人人は志あるもなきも知られ候はざりしかども御勘気をかほりて佐渡の島まで流されしかば問い訪う人もなかりしに女人の御身としてかたがた御志ありし上我と来り給いし事うつつならざる不思議なり、其の上いまのまうで又申すばかりなし、定めて神もまほらせ給ひ十羅刹も御あはれみましますらん、法華経は女人の御ためには暗きにともしび海に船おそろしき所にはまほりとなるべきよしちかはせ給へり、羅什三蔵は法華経を渡し給いしかば毘沙門天王は無量の兵士をして葱嶺を送りしなり、道昭法師野中にして法華経をよみしかば無量の虎来りて守護しき、此れも又彼にはかはるべからず、地には三十六祇天には二十八宿まほらせ給う上人には必ず二つの天影の如くにそひて候、所謂一をば同生天と云い二をば同名天と申す左右の肩にそひて人を守護すれば、失なき者をば天もあやまつ事なし況や善人におひてをや、されば妙楽大師のたまはく「必ず心の固きに仮りて神の守り則ち強し」等云云、人の心かたければ神のまほり必ずつよしとこそ候へ、是は御ために申すぞ古への御心ざし申す計りなし其よりも今一重強盛に御志あるべし、其の時は弥弥十羅刹女の御まほりもつよかるべしとおぼすべし、例には他を引くべからず、日蓮をば日本国の上一人より下万民に至るまで一人もなくあやまたんとせしかども今までかうて候事は一人なれども心のつよき故なるべしとおぼすべし、一つ船に乗りぬれば船頭のはかり事わるければ一同に船中の諸人損じ又身つよき人も心かひなければ多くの能も無用なり、日本国にはかしこき人人はあるらめども大将のはかり事つたなければかひなし、壹岐対馬九ケ国のつはもの並に男女多く或はころされ或はとらはれ或は海に入り或は がけよりおちしものいくせんまんと云う事なし、又今度よせなば先にはにるべくもあるべからず、京と鎌倉とは但 壹岐対馬の如くなるべし、前にしたくしていづくへもにげさせ給へ、其の時は昔し日蓮を見じ聞かじと申せし人人も掌をあはせ法華経を信ずべし、念仏者禅宗までも南無妙法蓮華経と申すべし、


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