日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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太田左衛門尉御返事 /弘安元年四月

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厄年の人の危き事は少水に住む魚を鴟鵲なんどが伺ひ燈の辺に住める夏の虫の火中に入らんとするが如くあやうし、鬼神ややもすれば此の人の神を伺ひなやまさんとす、神内と申す時は諸の神身に在り万事心に叶う、神外と申す時は諸の神識の家を出でて万事を見聞するなり、当年は御辺は神外と申して諸神他国へ遊行すれば慎んで除災得楽を祈り給うべし、又木性の人にて渡らせ給へば今年は大厄なりとも春夏の程は何事か渡らせ給うべき、至門性経に云く「木は金に遇つて抑揚し火は水を得て光滅し土は木に値いて時に痩せ金は火に入つて消え失せ水は土に遇つて行かず」等云云。

 指して引き申すべき経文にはあらざれども予が法門は四悉檀を心に懸けて申すならば強ちに成仏の理に違わざれば且らく世間普通の義を用ゆべきか、然るに法華経と申す御経は身心の諸病の良薬なり、されば経に云く「此の経は則ち為閻浮提の人の病の良薬なり若し人病有らんに是の経を聞くことを得ば病即消滅して不老不死ならん」等云云、又云く「現世は安穏にして後生には善処ならん」等云云、又云く「諸余の怨敵皆悉く摧滅せん」等云云、取分奉る御守り方便品寿量品同じくは一部書きて進らせ度候へども当時は去り難き隙ども入る事候へば略して二品奉り候、相構え、相構えて御身を離さず重ねつつみて御所持有るべき者なり、此の方便品と申すは迹門の肝心なり此の品には仏十如実相の法門を説きて十界の衆生の成仏を明し給へば舎利弗等は此れを聞いて無明の惑を断じ真因の位に叶うのみならず、未来華光如来と成りて成仏の覚月を離垢世界の暁の空に詠ぜり十界の衆生の成仏の始めは是なり、当時の念仏者真言師の人人成仏は我が依経に限れりと深く執するは此等の法門を習学せずして未顕真実の経に説く所の名字計りなる授記を執する故なり。

 貴辺は日来は此等の法門に迷い給いしかども日蓮が法門を聞いて賢者なれば本執を忽に飜し給いて法華経を持ち給うのみならず、結句は身命よりも此の経を大事と思食す事不思議が中の不思議なり、是れは偏に今の事に非ず


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