日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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太田左衛門尉御返事 /弘安元年四月

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過去の宿縁開発せるにこそかくは思食すらめ有り難し有り難し、次に寿量品と申すは本門の肝心なり、又此の品は一部の肝心一代聖教の肝心のみならず三世の諸仏の説法の儀式の大要なり、教主釈尊寿量品の一念三千の法門を証得し給う事は三世の諸仏と内証等しきが故なり、但し此の法門は釈尊一仏の己証のみに非ず諸仏も亦然なり、我等衆生の無始已来六道生死の浪に沈没せしが今教主釈尊の所説の法華経に値い奉る事は乃往過去に此の寿量品の久遠実成の一念三千を聴聞せし故なり、有り難き法門なり。

 華厳真言の元祖法蔵澄観善無畏金剛智不空等が釈尊一代聖教の肝心なる寿量品の一念三千の法門を盗み取りて本より自の依経に説かざる華厳経大日経に一念三千有りと云つて取り入るる程の盗人にばかされて末学深く此の見を執す墓無し墓無し、結句は真言の人師の云く「争つて醍醐を盗んで各自宗に名く」と云云、又云く「法華経の二乗作仏久遠実成は無明の辺域大日経に説く所の法門を明の分位」等云云、華厳の人師云く「法華経に説く所の一念三千の法門は枝葉華厳経の法門は根本の一念三千なり」云云、是跡形も無き僻見なり、真言華厳経に一念三千を説きたらばこそ一念三千と云う名目をばつかはめおかしおかし亀毛兎角の法門なり。

 正しく久遠実成の一念三千の法門は前四味並びに法華経の迹門十四品まで秘させ給いて有りしが本門正宗に至りて寿量品に説き顕し給へり、此の一念三千の宝珠をば妙法五字の金剛不壊の袋に入れて末代貧窮の我等衆生の為に残し置かせ給いしなり、正法像法に出でさせ給いし論師人師の中に此の大事を知らず唯竜樹天親こそ心の底に知らせ給いしかども色にも出ださせ給はず、天台大師は玄文止観に秘せんと思召ししかども末代の為にや止観十章第七正観の章に至りて粗書かせ給いたりしかども薄葉に釈を設けてさて止み給いぬ、但理観の一分を示して事の三千をば斟酌し給う。

 彼の天台大師は迹化の衆なり、此の日蓮は本化の一分なれば盛に本門の事の分を弘むべし、然に是くの如き大事の義理の篭らせ給う御経を書きて進らせ候へば


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満月城岡山ポケット版御書