日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

[目次]

曾谷入道殿御返事

<前 P1058 次>


彼彼の諸経の題目は八教の内なり網目の如し、此の経の題目は八教の網目に超えて大綱と申す物なり、今妙法蓮華経と申す人人はその心をしらざれども法華経の心をうるのみならず一代の大綱を覚り給へり、例せば一二三歳の太子位につき給いぬれば国は我が所領なり摂政関白已下は我が所従なりとはしらせ給はねども、なにも此の太子の物なり、譬えば小児は分別の心なけれども悲母の乳を口にのみぬれば自然に生長するを趙高が様に心おごれる臣下ありて太子をあなづれば身をほろぼす、諸経諸宗の学者等法華経の題目ばかりを唱うる太子をあなづりて趙高が如くして無間地獄に堕つるなり、又法華経の行者の心もしらず題目計りを唱うるが諸宗の智者におどされて退心をおこすはこがいと申せし太子が趙高におどされころされしが如し。

 南無妙法蓮華経と申すは一代の肝心たるのみならず法華経の心なり体なり所詮なり、かかるいみじき法門なれども仏滅後二千二百二十余年の間月氏に付法蔵の二十四人弘通し給はず、漢土の天台妙楽も流布し給はず、日本国には聖徳太子伝教大師も宣説し給はず、されば和法師が申すは僻事にてこそ有るらめと諸人疑いて信ぜず是れ又第一の道理なり、譬えば昭君なんどをあやしの兵なんどがおかしたてまつるをみな人よもさはあらじと思へり、大臣公卿なんどの様なる天台伝教の弘通なからん法華経の肝心南無妙法蓮華経を和法師程のものがいかで唱うべしと云云、汝等是を知るや烏と申す鳥は無下のげす鳥なれども鷲・の知らざる年中の吉凶を知れり、蛇と申す虫は竜象に及ばずとも七日の間の洪水を知るぞかし、設い竜樹天台の知り給はざる法門なりとも経文顕然ならばなにをか疑はせ給うべき、日蓮をいやしみて南無妙法蓮華経と唱えさせ給はぬは小児が乳をうたがふてなめず病人が医師を疑いて薬を服せざるが如し、竜樹天親等は是を知り給へども時なく機なければ弘通し給わざるか、余人は又しらずして宣伝せざるか、仏法は時により機によりて弘まる事なれば云うにかひなき日蓮が時にこそあたりて候らめ。


<前 P1058 次>


満月城岡山ポケット版御書