日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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星名五郎太郎殿御返事 /文永四年十二月 四十六歳御作

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爰に菩提心論と云う一巻の文あり竜猛菩薩の造と号す、此の書に云く「唯真言法の中に即身成仏す故に是れ三摩地の法を説く諸教の中に於て闕いて書るさず」と云えり、此の語は大に不審なるに依て経文に就てこれを見るに即身成仏の語は有れども即身成仏の人全くなし、たとひありとも法華経の中に即身成仏あらば諸教の中にをいてかいて而もかかずと云うべからず此の事甚だ以て不可なり、但し此の書は全く竜猛の作にあらず委き旨は別に有るべし、設ひ竜猛菩薩の造なりともあやまりなり、故に大論に一代をのぶる肝要として「般若は秘密にあらず二乗作仏なし法華は是秘密なり二乗作仏あり」と云えり、又云く「二乗作仏あるは是秘密二乗作仏なきは是顕教」と云えり、若し菩提心論の語の如くならば別しては竜樹の大論にそむき総じては諸仏出世の本意一大事の因縁をやぶるにあらずや、今竜樹天親等は皆釈尊の説教を弘めんが為に世に出ず、付法蔵二十四人の其の一なり何ぞ此くの如き妄説をなさんや、彼の真言は是れ般若経にも劣れり何に況や法華に並べんや、爾るに弘法の秘蔵宝鑰に真言に一代を摂するとして法華を第三番に下し、あまつさへ戯論なりと云えり、謹んで法華経を披きたるに諸の如来の所説の中に第一なりと云えり、又已今当の三説に勝れたりと見えたり、又薬王の十喩の中に法華を大海にたとへ日輪にたとへ須弥山にたとへたり、若し此の義に依らば深き事何ぞ海にすぎん明かなる事何ぞ日輪に勝れん高き事何ぞ須弥山に越ゆる事有らん、喩を以て知んぬべし何を以てか法華に勝れたりと云はんや、大日経等に全く此の義なし但己が見に任せて永く仏意に背く、妙楽大師日く「請う眼有らん者は委悉に之を尋ねよ」と云へり、法華経を指て華厳に劣れりと云うは豈眼ぬけたるものにあらずや、又大経に云く「若し仏の正法を誹謗する者あらん正に其の舌を断べし」と、嗚呼誹謗の舌は世世に於て物云うことなく邪見の眼は生生にぬけて見ること無らん加之らず「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば乃至其の人命終えて阿鼻獄に入らん」の文の如くならば定めて無間大城に堕ちて無量億劫のくるしみを受けん、


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満月城岡山ポケット版御書