日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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千日尼御返事

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 されば此の経文をよみて見候へば此の経をきく人は一人もかけず仏になると申す文なり、九界六道の一切衆生各各心心かわれり、譬へば二人三人乃至百千人候へども一尺の面の内しちににたる人一人もなし、心のにざるゆへに面もにず、まして二人十人六道九界の衆生の心いかんがかわりて候らむ、されば花をあいし月をあいしすきをこのみにがきをこのみちいさきをあいし大なるをあいしいろいろなり、善をこのみ悪をこのみしなじななり、かくのごとくいろいろに候へども法華経に入りぬれば唯一人の身一人の心なり、譬へば衆河の大海に入りて同一の鹹味なるがごとく衆鳥の須弥山に近ずきて一色なるがごとし、提婆が三逆も羅・羅が二百五十戒も同じく仏になりぬ、妙荘厳王の邪見も舎利弗が正見も同じく授記をかをほれり、此れ即ち無一不成仏のゆへぞかし、四十余年の内の阿弥陀経等には舎利弗が七日の百万反大善根をとかれしかども未顕真実ときらわれしかば七日ゆをわかして大海になげたるがごとし、ゐ提希が観経をよみて無生忍を得しかども正直捨方便とすてられしかば法華経を信ぜずば返つて本の女人なり、大善を用うる事なし法華経に値わざればなにかせん、大悪をも歎く事無かれ一乗を修行せば提婆が跡をもつぎなん、此等は皆無一不成仏の経文のむなしからざるゆへぞかし。

 されば故阿仏房の聖霊は今いづくにかをはすらんと人は疑うとも法華経の明鏡をもつて其の影をうかべて候へば霊鷲山の山の中に多宝仏の宝塔の内に東むきにをはすと日蓮は見まいらせて候、若し此の事そらごとにて候わば日蓮がひがめにては候はず、釈迦如来の世尊法久後要当説真実の御舌も多宝仏の妙法華経皆是真実の舌相も四百万億那由佗の国土にあさのごとくいねのごとく星のごとく竹のごとくぞくぞくとすきまもなく列なつてをはしましし諸仏如来の一仏もかけ給はず、広長舌を大梵王宮に指し付けてをはせし御舌どものくぢらの死にてくされたるがごとくいわしのよりあつまりてくされたるがごとく皆一時にくちくされて


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満月城岡山ポケット版御書