日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

[目次]

千日尼御返事

<前 P1321 次>


又子は財と申す経文もはんべり所以に経文に云く「其の男女追つて福を修すれば大光明有つて地獄を照し其の父母に信心を顕さしむ」等と申す、設い仏説ならずとも眼の前に見えて候。

 天竺に安足国王と申せし大王はあまりに馬をこのみてかいしほどに後にはかいなれて鈍馬を竜馬となすのみならず牛を馬ともなす結句は人を馬となしてのり給いき、其の国の人あまりになげきしかば知らぬ国の人を馬となす、他国の商人のゆきたりしかば薬をかいて馬となして御まやうにつなぎつけぬ、なにとなけれども我が国はこいしき上妻子ことにこいしくしのびがたかりしかどもゆるす事なかりしかばかへる事なし、又かへりたりともこのすがたにては由なかるべし、ただ朝夕にはなげきのみにしてありし程に一人ありし子父のまちどきすぎしかば人にや殺されたるらむ又病にや沈むらむ子の身としていかでか父をたづねざるべきといでたちければ母なげくらく男も他国よりかへらず一人の子もすててゆきなば我いかんがせんとなげきしかども子ちちのあまりにこいしかりしかば安足国へ尋ねゆきぬ、ある小屋にやどりて候しかば家の主申すやうあらふびんやわどのはをさなき物なり而もみめかたち人にすぐれたり、我に一人の子ありしが他国にゆきてしにやしけん又いかにてやあるらむ、我が子の事ををもへばわどのをみてめもあてられず、いかにと申せば此の国は大なるなげき有り、此の国の大王あまり馬をこのませ給いて不思議の草を用い給へり、一葉せばき草をくわすれば人馬となる、葉の広き草をくわすれば馬人となる、近くも他国の商人の有りしをこの草をくわせて馬となして第一の御まやに秘蔵してつながれたりと申す、此の男これをきいてさては我が父は馬と成りてけりとをもいて返つて問う其の馬は毛はいかにとといければ家の主答えて云く栗毛なる馬の肩白くぶちたりと申す、此の物此の事をききてとかうはからいて王宮に近づき葉の広き草をぬすみとりて我が父の馬になりたりしに食せしかば本のごとく人となりぬ、其の国の大王不思議なるおもひをなして孝養の者なりとて父を子にあづけ給へり、


<前 P1321 次>


満月城岡山ポケット版御書