日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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一谷入道御書

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宿の入道と云ひ妻と云ひつかう者と云ひ始はおぢをそれしかども先世の事にやありけん、内内不便と思ふ心付きぬ、預りよりあづかる食は少し付ける弟子は多くありしに僅の飯の二口三口ありしを或はおしきに分け或は手に入て食しに宅主内内心あつて外にはをそるる様なれども内には不便げにありし事何の世にかわすれん、我を生みておはせし父母よりも当時は大事とこそ思いしか、何なる恩おもはげむべしまして約束せし事たがうべしや。

 然れども入道の心は後世を深く思いてある者なれば久しく念仏を申しつもりぬ、其の上阿弥陀堂を造り田畠も其の仏の物なり、地頭も又をそろしなんど思いて直ちに法華経にはならず、是は彼の身には第一の道理ぞかし、然れども又無間大城は疑無し、設ひ是より法華経を遣したりとも世間もをそろしければ念仏すつべからずなんど思はば、火に水を合せたるが如し、謗法の大水法華経を信ずる小火をけさん事疑なかるべし、入道地獄に堕つるならば還つて日蓮が失になるべし、如何んがせん如何んがせんと思いわづらひて今まで法華経を渡し奉らず、渡し進せんが為にまうけまいらせて有りつる法華経をば鎌倉の焼亡に取り失ひ参せて候由申す、旁入道の法華経の縁はなかりけり、約束申しける我が心も不思議なり、又我とはすすまざりしを鎌倉の尼の還りの用途に歎きし故に口入有りし事なげかし、本銭に利分を添えて返さんとすれば又弟子が云く御約束違ひなんど申す、旁進退極りて候へども人の思わん様は狂惑の様なるべし、力及ばずして法華経を一部十巻渡し奉る、入道よりもうばにてありし者は内内心よせなりしかば是を持ち給へ。

 日蓮が申す事は愚なる者の申す事なれば用ひず、されども去る文永十一年[太歳甲戌]十月に蒙古国より筑紫によせて有りしに対馬の者かためて有りしに宗総馬尉逃ければ百姓等は男をば或は殺し或は生取にし女をば或は取り集めて手をとをして船に結い付け或は生け取にす一人も助かる者なし、壹岐によせても又是くの如し、


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満月城岡山ポケット版御書