日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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新池御書

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然るに此の国思いの外に悪鬼神の住家となれり哀なり哀なり。

 又一代聖教を弘むる人多くおはせども是れ程の大事の法門をば伝教天台もいまだ仰せられず、其も道理なり末法の始の五百年に上行菩薩の出世あつて弘め給ふべき法門なるが故なり、相構へていかにしても此の度此の経を能く信じて命終の時千仏の迎いに預り霊山浄土に走りまいり自受法楽すべし、信心弱くして成仏ののびん時某をうらみさせ給ふな、譬えば病者に良薬を与ふるに毒を好んでくひぬれば其の病愈えがたき時我がとがとは思はず還って医師を恨むるが如くなるべし、此の経の信心と申すは少しも私なく経文の如くに人の言を用ひず法華一部に背く事無ければ仏に成り候ぞ、仏に成り候事は別の様は候はず、南無妙法蓮華経と他事なく唱へ申して候へば天然と三十二相八十種好を備うるなり、如我等無異と申して釈尊程の仏にやすやすと成り候なり、譬えば鳥の卵は始は水なり其の水の中より誰かなすともなけれども觜よ目よと厳り出来て虚空にかけるが如し、我等も無明の卵にしてあさましき身なれども南無妙法蓮華経の唱への母にあたためられまいらせて三十二相の觜出でて八十種好の鎧毛生そろひて実相真如の虚空にかけるべし、爰を以て経に云く「一切衆生は無明の卵に処して智慧の口ばしなし、仏母の鳥は分段同居の古栖に返りて無明の卵をたたき破りて一切衆生の鳥をすだてて法性真如の大虚にとばしむ」と説けり取意。

 有解無信とて法門をば解りて信心なき者は更に成仏すべからず、有信無解とて解はなくとも信心あるものは成仏すべし、皆此の経の意なり私の言にはあらずされば二の巻には「信を以て入ることを得己が智分に非ず」とて智慧第一の舎利弗も但此の経を受け持ち信心強盛にして仏になれり己が智慧にて仏にならずと説き給へり、舎利弗だにも智慧にては仏にならず、況や我等衆生少分の法門を心得たりとも信心なくば仏にならんことおぼつかなし、末代の衆生は法門を少分こころえ僧をあなづり法をいるかせにして悪道におつべしと説き給へり、


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満月城岡山ポケット版御書