日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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上野殿母御前御返事

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花の始めてさけるが如くいかに愛しまいらせ給うらん、抑いかなれば三世十方の諸仏はあながちに此の法華経をば守らせ給ふと勘へて候へば道理にて候けるぞ法華経と申すは三世十方の諸仏の父母なりめのとなり主にてましましけるぞや、かえると申す虫は母の音を食とす母の声を聞かざれば生長する事なし、からぐら(迦羅求羅)と申す虫は風を食とす風吹かざれば生長せず、魚は水をたのみ鳥は木をすみかとす仏も亦かくの如く法華経を命とし食としすみかとし給うなり、魚は水にすむ仏は此の経にすみ給う鳥は木にすむ仏は此の経にすみ給う月は水にやどる仏は此の経にやどり給う、此の経なき国には仏まします事なしと御心得あるべく候。

 古昔輪陀王と申せし王をはしき南閻浮提の主なり、此の王はなにをか供御とし給いしと尋ぬれば白鳥のいななくを聞いて食とし給う、此の王は白馬のいななけば年も若くなり色も盛んに魂もいさぎよく力もつよく又政事も明らかなり、故に其の国には白馬を多くあつめ飼いしなり、譬えば魏王と申せし王の鶴を多くあつめ徳宗皇帝のほたるを愛せしが如し、白馬のいななく事は又白鳥の鳴きし故なり、されば又白鳥を多く集めしなり、或時如何しけん白鳥皆うせて白馬いななかざりしかば、大王供御たえて盛んなる花の露にしほれしが如く満月の雲におほはれたるが如し、此の王既にかくれさせ給はんとせしかば、后太子大臣一国皆母に別れたる子の如く皆色をうしなひて涙を袖におびたり如何せん如何せん、其の国に外道多し当時の禅宗念仏者真言師律僧等の如し、又仏の弟子も有り当時の法華宗の人人の如し、中悪き事水火なり胡と越とに似たり、大王勅宣を下して云く、一切の外道此の馬をいななかせば仏教を失いて一向に外道を信ぜん事諸天の帝釈を敬うが如くならん、仏弟子此の馬をいななかせば一切の外道の頚を切り其の所をうばひ取りて仏弟子につくべしと云云、外道も色をうしなひ仏弟子も歎きあへり、而れどもさてはつべき事ならねば外道は先に七日を行ひき、白鳥も来らず白馬もいななかず、後七日を仏弟子に渡して祈らせしに馬鳴と申す小僧一人あり、


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満月城岡山ポケット版御書