日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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上野殿母御前御返事

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諸仏の御本尊とし給う法華経を以て七日祈りしかば白鳥壇上に飛び来る、此の鳥一声鳴きしかば一馬一声いななく、大王は馬の声を聞いて病の牀よりをき給う、后より始めて諸人馬鳴に向いて礼拝をなす、白鳥一二三乃至十百千出来して国中に充満せり、白馬しきりにいななき一馬二馬乃至百千の白馬いななきしかば大王此の音を聞こし食し面貌は三十計り心は日の如く明らかに政正直なりしかば、天より甘露ふり下り、勅風万民をなびかして無量百歳代を治め給いき。

 仏も又かくの如く多宝仏と申す仏は此の経にあひ給はざれば御入滅此の経をよむ代には出現し給う、釈迦仏十方の諸仏も亦復かくの如し、かかる不思議の徳まします経なれば此の経を持つ人をばいかでか天照太神八幡大菩薩富士千眼大菩薩すてさせ給うべきとたのもしき事なり、又此の経にあだをなす国をばいかに正直に祈り候へども必ず其の国に七難起りて他国に破られて亡国となり候事大海の中の大船の大風に値うが如く大旱魃の草木を枯らすが如しとをぼしめせ、当時日本国のいかなるいのり候とも日蓮が一門法華経の行者をあなづらせ給へばさまざまの御いのり叶はずして大蒙古国にせめられてすでにほろびんとするが如し、今も御覧ぜよただかくては候まじきぞ是れ法華経をあだませ給う故と御信用あるべし。

 抑故五郎殿かくれ給いて既に四十九日なり、無常はつねの習いなれども此の事うち聞く人すら猶忍びがたし、況や母となり妻となる人をや心の中をしはかられて候、人の子には幼きもあり長きもありみにくきもありかたわなるもある物をすら思いになるべかりけるにや、をのこごたる上よろづにたらひなさけあり、故上野殿には壮なりし時をくれて歎き浅からざりしに此の子を懐姙せずば火にも入り水にも入らんと思いしに此の子すでに平安なりしかば誰にあつらへて身をもなぐべきと思うて、此に心をなぐさめて此の十四五年はすぎぬ、いかにいかにとすべき、二人のをのこごにこそになわれめとたのもしく思ひ候いつるに


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満月城岡山ポケット版御書