日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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善無畏抄 /建治元年 五十四歳御作

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 嘉祥寺の吉蔵大師は三論宗の元祖或時は一代聖教を五時に分け或時は二蔵と判ぜり、然りと雖も竜樹菩薩の造の百論中論十二門論大論を尊んで般若経を依憑と定め給い、天台大師を辺執して過ぎ給いし程に智者大師の梵網等の疏を見て少し心とけやうやう近づきて法門を聴聞せし程に結句は一百余人の弟子を捨て般若経並びに法華経をも講ぜず七年に至つて天台大師に仕えさせ給いき、高僧伝には「衆を散じ身を肉橋と成す」と書かれたり、天台大師高坐に登り給えば寄りて肩を足に備え路を行き給えば負奉り給うて堀を越え給いき、吉蔵大師程の人だにも謗法を恐れてかくこそ仕え給いしか、然るを真言三論法相等の宗宗の人人今末末に成りて辺執せさせ給うは自業自得果なるべし。

 今の世に浄土宗禅宗なんど申す宗宗は天台宗にをとされし真言華厳等に及ぶ可からず、依経既に楞伽経観経等なり此等の経経は仏の出世の本意にも非ず一時一会の小経なり一代聖教を判ずるに及ばず、而も彼の経経を依経として一代の聖教を聖道浄土難行易行雑行正行に分ち教外別伝なむどののしる、譬えば民が王をしえたげ小河の大海を納むるが如し、かかる謗法の人師どもを信じて後生を願う人人は無間地獄脱る可きや、然れば当世の愚者は仏には釈迦牟尼仏を本尊と定めぬれば自然に不孝の罪脱がれ法華経を信じぬれば不慮に謗法の科を脱れたり。

 其の上女人は五障三従と申して世間出世に嫌われ一代の聖教に捨てられ畢んぬ、唯法華経計りにこそ竜女が仏に成り諸の尼の記・はさづけられて候ぬれば一切の女人は此の経を捨てさせ給いては何の経をか持たせ給うべき、天台大師は震旦国の人仏滅後一千五百余年に仏の御使として世に出でさせ給いき、法華経に三十巻の文を注し給い文句と申す文の第七の巻には「他経には但男に記して女に記せず」等云云、男子も余経にては仏に成らざれども且らく与えて其をば許してむ、


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満月城岡山ポケット版御書