日蓮大聖人御書全集 創価学会版
(ポケット版御書)

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薬王品得意抄 /文永二年

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此の戒を堅く持ちて無量劫之を破りたまわず終に此の戒力に依て仏身を成じ三十二相の中に広長舌相を得たまえり、此の舌うすくひろくながくして或は面にををい或は髪際にいたり或は梵天にいたる舌の上に五の画あり印文のごとし其の舌の色は赤銅のごとし舌の下に二の珠あり甘露を涌出す此れ不妄語戒の徳の至す所なり、仏此の舌を以て三世の諸仏の御眼は大地に落つとも法界の女人は仏になるべからずと説かれしかば一切の女人は何なる世にも仏には成らせ給うまじきとこそ覚えて候へ、さるにては女人の御身も受けさせ給いては設ひ后三公の位にそなはりても何かはすべき善根仏事をなしてもよしなしとこそ覚え候へ、而るを此の法華経の薬王品に女人の往生をゆるされ候ぬる事又不思議に候、彼の経の妄語か此の経の妄語かいかにも一方は妄語たるべきか、若し又一方妄語ならば一仏に二言あり信じ難し但し無量義経の四十余年には未だ真実を顕さず涅槃経の如来には虚妄の言無しと雖も若し衆生虚妄の説に因ると知しめすの文を以て之を思えば仏は女人は往生成仏すべからずと説かせ給いけるは妄語と聞えたり、妙法華経の文に世尊の法は久くして後に要ず当に真実を説くべし妙法華経乃至皆是真実と申す文を以て之を思うに女人の往生成仏決定と説かるる法華経の文は実語不妄語戒と見えたり、世間の賢人も但一人ある子が不思議なる時或は失ある時は永く子為るべからざるの理起請を書き或は誓言を立ると雖も命終の時に臨めば之を許す、然りと雖も賢人に非ずと云わず又妄語せる者とも云わず仏も亦是くの如し、爾前四十余年が間は菩薩の得道凡夫の得道善人男子等の得道をば許すやうなれども、二乗悪人女人なんどの得道此れをば許さず或は又許すににたる事もあり、いまだ定めがたかりしを仏の説教四十二年すでに過ぎて八年が間摩謁提国王舎城耆闍崛山と申す山にして法華経を説かせ給うとおぼせし時先づ無量義経と申す経を説かせ給ふ無量義経の文に云く四十余年云云。

=   月 日                  日蓮花押


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満月城岡山ポケット版御書