<前
P1531 次>/建治二年三月 五十五歳御作
かたびら一つしをいちだ(塩一駄)あぶら五そう給び候い了んぬ、ころもはかんをふせぎ又ねつをふせぐみをかくしみをかざる、法華経の第七やくわうぼん(薬王品)に云く「如裸者得衣」等云云、心ははだかなるもののころもをへたるがごとし、もんの心はうれしき事をとかれて候。
ふほうぞう(付法蔵)の人のなかに商那和衆と申す人あり衣をきてむまれさせ給う、これは先生に仏法にころもをくやうせし人なり、されば法華経に云く「柔和忍辱衣」等云云、こんろん山には石なしみのぶのたけにはしをなし、石なきところにはたまよりもいしすぐれたり、しをなきところにはしをこめにもすぐれて候、国王のたからは左右の大臣なり左右の大臣をば塩梅と申す、みそしをなければよわたりがたし左右の臣なければ国をさまらず、あぶらと申すは涅槃経に云く風のなかにあぶらなしあぶらのなかにかぜなし風をぢする第一のくすりなり、かたがたのものをくり給いて候御心ざしのあらわれて候事申すばかりなし、せんするところはこなんでうどの(故南条殿)の法華経の御しんようのふかかりし事のあらわるるか、王の心ざしをば臣のべをやの心ざしをば子の申しのぶるとはこれなり、あわれことののうれしとをぼすらん。
つくしにををはしの太郎と申しける大名ありけり、大将どのの御かんきをかほりてかまくらゆひのはまつちのろうにこめられて十二年めしはじしめられしときつくしをうちいでしにごぜんにむかひて申せしはゆみやとるみとなりてきみの御かんきをかほらんことはなげきならず、又ごぜんにをさなくよりなれしかいまはなれん事いうばかりなし、これはさてをきぬ、なんしにてもによしにても一人なき事なげきなり、
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