<前
P1533 次>をやは生きて候か、しにて候かと申していぬの時より法華経をはじめてとらの時までによみければなにとなきをさなきこへはうでんにひびきわたりこころすごかりければまいりてありける人人もかへらん事をわすれにき、皆人いちのやうにあつまりてみければをさなき人にて法師ともをぼえずをうなにてもなかりけり。
をりしもきやうのにゐどの御さんけいありけり、人めをしのばせ給いてまいり給いたりけれども御経のたうとき事つねにもすぐれたりければはつるまで御聴聞ありけりさてかへらせ給いておはしけるがあまりなごりをしさに人をつけてをきて大将殿へかかる事ありと申させ給いければめして持仏堂にして御経よませまいらせ給いけり。
さて次の日又御聴聞ありければ西のみかど人さわぎけり、いかなる事ぞとききしかば今日はめしうどのくびきらるるとののしりけり、あわれわがをやはいままで有るべしとはをもわねどもさすが人のくびをきらるると申せば我が身のなげきとをもひてなみだぐみたりけり、大将殿あやしとごらんじてわちごはいかなるものぞありのままに申せとありしかば上くだんの事一一に申しけり、をさふらひにありける大名小名みすの内みなそでをしぼりけり、大将殿かぢわらをめしてをほせありけるは大はしの太郎というめしうどまいらせよとありしかば只今くびきらんとてゆいのはま(由比浜)へつかわし候いぬ、いまはきりてや侯らんと申せしかばこのちご御まへなりけれどもふしころびなきけり、ををせのありけるはかぢわらわれとはしりていまだ切らずばぐしてまいれとありしかばいそぎいそぎゆいのはま(由比浜)へはせゆく、いまだいたらぬによばわりければすでに頚切らんとて刀をぬきたりけるときなりけり。
さてかじわらををはしの太郎をなわつけながらぐしてまいりてををにはにひきすへたりければ
<前
P1533 次>